求人票を作成する際、「なるべく魅力的に見せたい」という気持ちから、気づかないうちに誇大表現をしてしまっている採用担当者の方も多いのではないでしょうか?
基本給に残業代や賞与を含めて記載したり、実際とは異なる労働条件を記載したりすると、労働基準法違反になる可能性があります。また、入社後のトラブルや早期退職にもつながりかねません。
そこで、本記事では求人票作成時に注意すべき誇大表現の具体例と、法的に正しい基本給の記載方法について詳しく解説します。チェックリストやテンプレートも用意したので、これを機に自社の求人票を見直してみてください。
よくある誇大表現の具体例
まず、採用現場でついやってしまいがちな誇大表現のパターンを見ていきましょう。
基本給に残業代や賞与を含める
最も多い誇大表現が、基本給以外の項目を含めて「基本給」として記載するケースです。
NG例:
- 基本給30万円(実際は基本給18万円+固定残業代10万円+その他手当2万円)
- 月収35万円可能(実際は基本給20万円+賞与・インセンティブを月割りしたもの)
正しい記載方法:
- 基本給18万円 固定残業代10万円(45時間分、超過分は別途支給) その他手当2万円
昇給や賞与の条件を曖昧にする
「昇給あり」「賞与年2回」といった記載は、条件が明確でないと誇大表現になる可能性があります。
NG例:
- 昇給あり(実際は過去3年間昇給実績なし)
- 賞与年2回(実際は業績により支給されない場合がある)
正しい記載方法:
- 昇給:年1回(2023年度実績なし、2024年度実績なし)
- 賞与:年2回(業績により支給、2024年度実績1.5ヶ月分)
福利厚生の過大アピール
福利厚生についても、実態と異なる記載をするのは誇大表現です。
NG例:
- 充実した研修制度(実際は入社時のオリエンテーションのみ)
- 有給取得率90%以上(実際の取得率は未集計、推定値)
正しい記載方法:
- 研修制度:入社時オリエンテーション1日、OJT研修2週間
- 有給取得率:2024年度実績65%
労働基準法の賃金明示義務
労働基準法第15条および労働基準法施行規則第5条により、雇用契約締結時には賃金に関する条件を明示することが義務づけられています。
明示が必要な賃金項目
求人票や雇用契約書で明示すべき賃金項目は以下の通りです:
- 基本給の額(時間給、日給、月給等の区分)
- 各種手当の名称と支給条件
- 賞与の有無と支給条件
- 退職金の有無と支給条件
- 昇給の有無と基準
固定残業代制度の記載ルール
固定残業代(みなし残業代)を導入している場合は、以下の項目を明記する必要があります:
- 固定残業代の金額
- 何時間分の残業代に相当するか
- 固定残業時間を超えた場合の取り扱い
記載例:
基本給:220,000円
固定残業代:50,000円(月30時間分)
※30時間を超える残業については別途支給いたします
魅力的で法的に正しい求人票の作成方法
法的リスクを避けながらも、求職者にとって魅力的な求人票を作成するコツをご紹介します。
ポジティブな表現への言い換え
ネガティブに聞こえがちな内容も、伝え方次第でポジティブに変換できます。
改善例:
- 「残業あり」→「プロジェクトに集中して取り組める環境」
- 「土日出勤の可能性あり」→「イベント等で土日勤務の場合は平日に振替休日を取得」
具体的な数値で信頼性を高める
曖昧な表現よりも、具体的な数値を用いることで説得力のある求人票になります。
具体化例:
- 「アットホームな職場」→「平均勤続年数8年、離職率5%の安定した職場環境」
- 「成長できる環境」→「年間研修費用1人当たり20万円、外部研修受講支援制度あり」
実際の社員の声を活用
求人募集でSEO効果を最大化する方法で紹介した通り、リアルな社員の声を掲載することで信頼性を高められます。ただし、その際も誇張せず、事実に基づいた内容にすることが重要です。
法的チェックリスト
求人票を公開する前に、以下のチェックリストで法的な問題がないか確認してみてください。
賃金関連チェックポイント
- [ ] 基本給の金額は基本給のみの金額になっているか
- [ ] 各種手当の名称と支給条件が明記されているか
- [ ] 固定残業代がある場合、時間数と超過分の取り扱いが記載されているか
- [ ] 賞与の支給条件(業績連動、査定基準等)が明確になっているか
- [ ] 昇給の有無と直近の実績が正確に記載されているか
労働条件関連チェックポイント
- [ ] 労働時間(始業・終業時刻、休憩時間)が正確に記載されているか
- [ ] 休日・休暇制度の詳細が記載されているか
- [ ] 社会保険の加入条件が明記されているか
- [ ] 試用期間がある場合、期間と条件が記載されているか
- [ ] 退職金制度の有無と条件が記載されているか
表現・記載内容チェックポイント
- [ ] 事実と異なる内容が記載されていないか
- [ ] 数値データは直近の実績に基づいているか
- [ ] 福利厚生の内容は実態に即しているか
- [ ] 「充実した」「豊富な」等の曖昧な表現を具体的な内容で補足しているか
- [ ] 法的に問題のある表現(性別、年齢等による差別的表現)がないか
求人票テンプレートと記載例
実際の求人票作成に役立つテンプレートを紹介します。
基本情報テンプレート
【職種】
営業職(法人向けソフトウェア販売)
【雇用形態】
正社員
【給与】
基本給:250,000円~350,000円(経験・スキルにより決定)
固定残業代:50,000円(月30時間分、超過分は別途支給)
営業手当:20,000円
【昇給・賞与】
昇給:年1回(4月、2024年度実績:全社員平均5,000円)
賞与:年2回(業績により支給、2024年度実績:基本給2.1ヶ月分)
【労働時間】
9:00~18:00(実働8時間、休憩60分)
【休日・休暇】
週休2日制(土日)、祝日
年次有給休暇(初年度10日、最大20日)
夏季休暇3日、年末年始休暇5日
【福利厚生】
各種社会保険完備、退職金制度(勤続3年以上)
研修制度(新入社員研修1週間、外部研修年1回補助)
注意点の記載例
求人票の末尾に、以下のような注意書きを追加することをおすすめします:
※記載内容は2026年5月現在のものです
※面接時に詳細な労働条件をご説明いたします
※ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください
この記載により、透明性を保ちながら求職者とのコミュニケーションを促進できます。採用プロセスを改善する実践的手法でも触れている通り、最初の情報開示から丁寧に対応することで、後々のトラブルを防げます。
また、募集要件を定義する際の落とし穴と同様に、求人票作成時も客観的かつ正確な情報提供を心がけることが重要です。
いろいろなチェックポイントがありますが、まずは上記のテンプレートを参考に、自社の求人票を見直してみてはいかがでしょうか。法的なリスクを回避しながらも、魅力的な求人票を作成していきましょう。
よくある質問
Q: 固定残業代制度を導入している場合、どこまで詳細に記載する必要がありますか?
固定残業代制度を採用している場合は、以下の3点を必ず明記してください。①固定残業代の金額、②何時間分の残業代に相当するか、③固定残業時間を超えた場合の取り扱いです。例:「固定残業代50,000円(月30時間分、超過分は別途支給)」のように具体的に記載することで、労働基準法の要件を満たせます。
Q: 賞与の支給実績がない場合、どのように記載すればよいでしょうか?
賞与の支給実績がない場合は、「賞与:なし」または「賞与:業績により支給(過去3年間支給実績なし)」のように正直に記載することが重要です。「賞与あり」と記載して後から「業績不振で支給されませんでした」となると、労働契約法違反や採用詐欺として問題になる可能性があります。
Q: 昇給の実績がない会社でも「昇給あり」と記載できますか?
昇給制度が社内規程で定められていても、実績がない場合は「昇給:年1回査定(2024年度実績なし)」のように実態を記載することをおすすめします。制度があることと実際に昇給が行われることは別の話なので、求職者が誤解しないよう透明性を保つことが大切です。
Q: 福利厚生で「社員旅行あり」と記載したいのですが、コロナで中止になっています。どう書けばよいでしょうか?
現在実施していない制度については、「社員旅行:例年実施(2020年以降はコロナ影響により中止)」のように現状を正確に記載しましょう。また、「今後の実施については感染状況を見ながら検討」など、再開予定についても言及すると求職者にとって親切です。
Q: 試用期間中は給与が低い場合、どのように記載すべきでしょうか?
試用期間中の給与が本採用時と異なる場合は、両方の条件を明記する必要があります。例:「基本給:試用期間中220,000円、本採用後250,000円」のように記載してください。試用期間の長さ(通常3ヶ月等)と、本採用の条件も併せて記載することで、求職者が適切に判断できるようになります。